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携帯電話アンテナインピーダンス整合用GaAsスイッチIC


要旨

最近の携帯電話は、マルチバンド・マルチモード化が進むとともに、FeliCaに代表される近距離通信機能が付加されています。これらのアンテナには小さな携帯電話の中で機能を実現するため、細かなインピーダンス整合が求められます。GaAsスイッチICは低い損失特性など、それらを実現するために適した特性を有しています。本稿では、アンテナのインピーダンス整合用に開発したGaAsスイッチICの技術と製品を紹介します。


1. はじめに

携帯電話に代表される無線通信機能を有する携帯端末機器では、通信データの高速化や利便性向上のために使用周波数のマルチバンド化、搭載システムのマルチモード化が進展しています。特に、GSMとUMTS(W-CDMA)の両方が使えるマルチバンド・マルチモードの携帯電話やスマートフォンなどが広く普及しており、これらにはGPSやワンセグに加えて、Bluetooth、WLANやFeliCaに代表される近距離通信(NFC)によるお財布機能など、様々な無線通信システムを混載するようになりました。

このような携帯端末機器では、これまで高周波信号を低損失、高速、低消費電力で切り替える高周波スイッチICの需要が大部分でした。近年、小型アンテナを多機能かつ高性能に使いこなすために、アンテナのインピーダンスを切り替え調整し、特性改善するためのスイッチICの需要が新たに増大しています。一般的に、アンテナは使用する周波数に対してインピーダンス整合を行うことにより、電力効率の良い送信や受信感度の向上を図ります。したがって、複数の周波数や広い帯域で特性を良くするには、波長に見合う大きなアンテナを適用したり、使う周波数ごとにアンテナを複数個搭載することが必要です。一方、小型化が進む携帯端末機器では、スペースやコストの制約から小型薄型の内蔵アンテナを1つ採用しますが、アンテナの小型薄型化で特性は劣化し、狭帯域となります。これをマルチバンド化(例えば1GHzと2GHzの両周波数で使えるように)するには、スイッチICなどでアンテナのインピーダンスを使う周波数に合わせる必要があります。

一方、FeliCaは13.56MHzという低い周波数用のコイル状アンテナが使われており、不安定なワンタッチでの使用条件下でも安定した通信特性が求められます。FeliCaアンテナを携帯端末に搭載すると、周辺の影響や組み立てばらつきなどにより、共振周波数が微妙にずれて通信特性が取れない場合があります。これを解決するために、アンテナに対し、キャパシタなどのインピーダンス整合素子をスイッチICで切り替えて、細かな調整をしています。

本稿ではGSM+UMTSマルチバンド・マルチモード携帯端末向小型内蔵アンテナ、FeliCaアンテナのインピーダンス調整用として開発したスイッチICの技術と製品を紹介します。



2. 高周波スイッチICとGaAsスイッチIC技術

マルチバンド・マルチモード携帯電話では、アンテナに対して複数の高周波信号の経路を切り替えるアンテナ切り替えスイッチICが使われています。従来は、PINダイオードを複数個組み合わせたものが使われていましたが、1/4波長のストリップラインが必要であり、小型化や複合化に適さないため、最近では小型で消費電流の小さなGaAsスイッチICの適用が一般的です。また、SiのCMOSプロセスを用いたスイッチICもありますが、選択された回路パスに信号が通過する際の損失(ロス)が小さいことなど高周波特性面では、GaAsが優れています。ここで紹介するアンテナのインピーダンス調整用途に向けては、特に低ロス特性と高い通過信号電力を扱えること(高出力対応)が要求され、更には通過する信号が歪まないこと(低歪特性)も求められます。また、GaAsデバイスは従来コスト高の印象でありましたが、量産効果により比較的安価になりました。これまで価格が高いために敬遠されていた用途からの引き合いも増え、適用領域は広がっています。

弊社では独自に開発したヘテロ接合FET(Heterojunction Field Effect Transistor:HJFET)をスイッチICに適用しました1)。エピタキシャルウェハは、GaAs基板の上に無添加のInGaAsチャネル層をドナー添加したAlGaAs層で挟み込んだダブルドープダブルへテロ接合構造を有しており、素子特性は、低オン抵抗、高電流密度で高耐圧であり、電流の線形性も良好です。このHJFETをスイッチICに適用することにより、小型チップのスイッチICで、大きな電力まで低損失、低歪かつ各パス間の信号が混ざらない(良好なアイソレーション)特性が得られました。

またチップの小型化設計に加えて、小型で薄いパッケージの開発も進めました。具体的には、薄く微細なリードフレームや高さの低い金ワイヤーボンディング技術などを開発適用しました。その結果、業界最小クラスのパッケージサイズで製品化することができました。



3. アンテナインピーダンス整合用スイッチIC製品

アンテナのインピーダンス整合用に必要な特性は、大きな振幅の信号をロス無くアンテナとインピーダンス整合させることにあるので、先に示しましたようにGaAsスイッチICが最適です。加えて、より魅力的な製品に仕上げるため、開発した小型チップを小型低背のパッケージに収めました。

まず、マルチバンド・マルチモード携帯電話向けのアンテナインピーダンス整合用スイッチIC製品「μPG2183T6C」について代表的な特性を表1にまとめます。この用途では、GSMとUMTSが1GHzと2GHzの両方の周波数帯でそれぞれ使用されるため、1つの小型アンテナを2周波数にマッチングさせる必要があります。開発したスイッチICは、HJFET技術を用いることにより、37.5dBmという高いRF電力を、1GHzで0.4dB、2GHzで0.55dBの低い損失で、1ポートの信号を4ポート(Singe Pole 4 Throw : SP4T)に切り替えます。

GSM用のアンテナ切り替えスイッチにも使えますが、アンテナのインピーダンス整合に適用した場合は、図1に示しますように、4つインピーダンス整合条件へチューニング素子の切り替えが可能です。Siデバイス技術で作製したスイッチICと比較すると低損失であり、電力効率の良い送信や受信感度の向上に寄与します。また、写真1に外観を示します。ポートの切り替えは、ロジック信号により制御され、この機能も含めて、縦3.0㎜、横3.0㎜、高さ0.75㎜のパッケージに収めています。

次に、SP3TスイッチIC「μPG2404T6Q」を紹介します。このスイッチICは、CDMA用のメインアンテナ切り替えスイッチとしても十分に使用可能な特性を持つとともに、FeliCaアンテナ向けのインピーダンス整合用スイッチICとして、従来製品よりも大幅な小型化と薄型化を図っています。具体的には、CDMAやFeliCaアンテナ用で実績のある弊社既存のSP3T製品「μPG2031TQ」と同等特性を維持し、同時に縦2.0㎜、横1.35㎜、高さ0.4㎜という業界最小の超小型薄型パッケージに封入しました。弊社従来比で、実装面積で54%、厚さで34%の小型薄型化を実現したことが特長です。写真2に外観を示します。

表2にSP3TスイッチIC「μPG2404T6Q」の代表的な特性を示します。SP3TスイッチIC「μPG2404T6Q」は、2.8Vと0Vのコントロール電圧で動作する3コントロールタイプのSP3Tスイッチで、2GHz帯の50Ωの特性インピーダンス条件下では、挿入損失は0.55dB、アイソレーションは21dB、パワー特性は+33dBm(P0.1dB)と、CDMA用メインアンテナ切り替えスイッチ用に十分な特性を有しています。

一方、FeliCaアンテナ向けのインピーダンス整合用では、インピーダンス条件が必ずしも50Ωではなく、周波数も2GHz帯と比べて極端に低いため、この特性がそのまま得られる訳ではありません。しかしながら、FeliCaアンテナから入力される高い電圧振幅に対応した高耐圧特性や、微小な容量を切り替える際に重要なスイッチICのオフポートとGND間の低寄生容量特性などに対応するには、高周波用に開発したGaAsスイッチICが適しています。FeliCaアンテナ向けのインピーダンス整合用スイッチICの使用例を図2に示します。

SP3Tの入力側と出力側3ポートには所望の容量をそれぞれ接続し、FeliCaアンテナと並列に接続したこの回路をロジック信号制御により容量値を切り替えることでFeliCaアンテナの特性を調整します。μPG2404T6Qは制御端子が3本あり、Highのロジック信号を供給したポートのみがオンとなります。したがって、制御信号を2本同時にHigh、3本同時にHighとすることで、SWICは2ポートが同時にオン、更には3ポート全て同時にオンの状態も作れます。これを利用すれば、3種類の容量値の組み合わせで、同時オンも含めると最大で7種類の容量バリエーションを作ることができます。このような同時オンの使い方は、通常のスイッチICの使い方とは大きく異なり、FeliCaアンテナに特有なものです。


μPG2183T6C の電気的特性


μPG2183T6Cを用いたアンテナのインピーダンス整合


μPG2183T6Cの外観


μPG2404T6Qの外観


μPG2404T6Q の電気的特性


μPG2404T6Qを用いたFeliCaアンテナのインピーダンス整合



4. 今後の展開とまとめ

最近の携帯電話は、多機能化が一層進み、多数RF信号の切り替えやアンテナに対するインピーダンス整合の要求が高まっています。より複雑な切り替え機能や使いやすい超小型スイッチICの開発を進めます。

また、小型薄型パッケージ展開としては、SPDTからSP3T、SP4T、 DPDTなど、マルチポートスイッチICの製品拡充を図り、お客様のニーズに合った製品をタイムリーに提供し、無線通信機器の更なる小型薄型化に貢献していきます。



* FeliCaは、ソニー㈱の登録商標です。

* Bluetoothワードマークとロゴは、Bluetooth SIG, Inc.の所有であり、NECはライセンスに基づきこのマークを使用しています。


参考文献

  1. 岩田直高, “GaAsヘテロ接合FETのパワーアンプとスイッチへの適用”, 電子情報通信学会総合大会 ソサイエティ特別企画 CT-1: 移動体通信を支える化合物半導体デバイス、2006年3月25日.

執筆者プロフィール

岩田 直高
NECエレクトロニクス
化合物デバイス事業部
チームマネージャー
電子情報通信学会会員
IEEEシニア会員

藤田 祐智
NECエレクトロニクス
化合物デバイス事業部
チームマネージャー





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