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車載機器として不可欠となったカーナビは、便利さを提供する経路案内からエンターテインメント情報や、安全・安心をドライバに伝える情報機器へと進化しています。当然ながら、システムの進化とともにCPU性能の向上が求められています。NECエレクトロニクスでは、カーナビ用としては世界ではじめて*1対称型マルチコア・プロセッサ*2を使用したシステムLSI「NaviEngine」を開発しました。驚異的な高性能だけでなく、車載機器向けとして必須となる低消費電力や高信頼性を実現した「NaviEngine」の開発背景について、開発に携わった吉田正康氏にお聞きしました。
2002年ごろ、車載情報の中枢として重要な役割を担うことになるカーナビ用システムLSIの開発が決定し、まず市場調査を行いました。この結果、車載メーカの求めている性能は従来よりも一桁高い1000MHz~2000MHzという高性能なものでした。しかし、その分だけ消費電力が高くなってしまうので自動車に搭載するには難しいことがすぐにわかりました。でもそこを何とかクリアして組み込み式で低消費電力動作を実現したいという思いがありました。そのためにマルチコアの技術がどうしても必要だったのです。
1980年代からのハイパフォーマンスコンピューティングのトレンドにあわせて、マルチコアの技術が登場してきましたが、NECでは他社よりも先駆けて20年以上もマルチコア技術の研究を進めてきました。2000年ごろに発表されたMP98という携帯端末向けの4コアプロセッサは、高性能と低消費電力をすでに両立していました。この技術を基にカーナビ用のマルチコアを作ろうと思い立ったのです。マルチコアを並列処理することで電力効率を最適化することができ、最終的に2007年に5W以下の低消費電力と1920MIPS(400MHz動作時)の高性能を両立することができました。
高性能なシステムLSIを作るにはマルチコアの中でも、特に対称型マルチコアプロセッサ(SMP)の技術がどうしても必要でした。しかしSMPの採用をお客様に納得していただくことに大変苦労しました。開発当初は、世間的にマルチコア・プロセッサ自体の技術認知度が低く、懐疑的だったのです。事実、携帯電話などでは非対称型マルチコア・プロセッサ(AMP)*3が採用されていましたが、シングルコアからマルチコアへのソフトウエアの移植が困難であると言われていました。しかしながら、SMPはAMPとは異なり、プログラミングが容易で低電力化を実現できるというメリットがあります。「NaviEngine」の開発にあたって、性能やソフトウエア開発、システムLSIの開発手法について1年半にわたり、徹底的に議論しました。他社がマルチコアに消極的なときに実践したこの蓄積が、NECエレクトロニクスにとって大きな強みとなっています。
今回開発した「NaviEngine」では、パートナ各社とのコラボレーションが重要な要素となりました。CPUでは、ARM社と共同開発したMPCoreを採用しています。ARM社のCPUは携帯電話などで広く使用されており、豊富なミドルウエアやソフトウエア開発ツールを利用できるというメリットがあります。また、SMP対応OSにより、コア数に関係なくプログラミングできるだけでなく、既存のシングルコア用のソフトウエアもそのまま移植できるようになっています。さらにSMP対応OSは、アプリケーションやソフトウエアに対して、どのCPUが動くかを自動的に選択してくれるようになっているので、コアがマルチであることを意識しないで開発することができるのです。
また、グラフィックエンジンには業界最高性能の2D/3D描画を誇るイマジネーション・テクノロジー社の最新描画コアSXG535を搭載しています。このほか、カーナビに必要な多くのIPコアを集積しており、多くのパートナ各社にご協力いただきました。ソフトウエア開発環境についても、早くからマルチコアに賛同してくれたイーソル社のeT-Kernel Multi-Core editionなど、順次提供される予定となっています。
コラボレーションにあたって、評価サンプル一発完動という目標を掲げました。パートナ会社でのソフトウエア開発に多くの時間が必要であったため、どうしても評価サンプルを一発で動作しなければならなかったのです。「NaviEngine」には、多くの新しい開発技術を投入していたので、結果的に一発で動作できたことは奇跡に近いのかもしれません。
また、車載用の半導体には不良品を出してはいけないという宿命があります。故障検出のためにDFT(デザインフォースティング)を採用するなど、エンジンコントロールに求められるレベルと同等の「不良品を0にする」という気概で臨みました。これは、「NaviEngine」が市場に出てからも、今後ずっと続けていく義務なのです。
これからのカーナビは、便利・快適・安全を目指すカーエレクトロニクスの情報機器としてますます高性能化が進んでいきます。それにあわせて、ナビエンジンもさらに進化していきます。たとえば90nmプロセスから55nmプロセスへの進化を通じて、低消費電力化を実現していくとともに、コア数の増加や搭載機能の選択などお客様のニーズにフレキシブルに対応していくつもりです。
これからの「NaviEngine」の進化に期待してください。
注釈(*)
IMAPCARはNECエレクトロニクス株式会社の日本国内における登録商標です。
ARM11およびMPCoreはEUおよび他国におけるARM Limitedの商標です。
11月に開催された「Embedded Technology 2007」では、「NaviEngine」のマルチコア技術を紹介するデモが行われました。
「モニタでは4つの画面が表示されており、左上からWindowsMediaVideoの再生、右上がグラフィックスエンジンSGX535を使用した高精細3Dレーシング映像の描画、左下は画像認識ミドルウエアによる白線認識、さらに右下はOSとしてWindowsCEのデスクトップ画面が同時に動作しています。また画面の中央にはそれぞれのCPU使用率を表示しており、マルチコア技術を紹介しております。」