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NECエレクトロニクスでは、消費電力を大幅に低減した55nmのセルベースICを開発しました。そこには、携帯電話や携帯機器の電池使用時間の長時間化に貢献するロー・スタンバイ・パワーCMOS技術を採用しています。世界ではじめて実用化したHigh-kゲート絶縁膜トランジスタの誕生にいたる「ちょこっとHigh-kコンセプト」を開発者の方々に聞きました。
携帯機器の高性能化と低消費電力化の両立のためには、「待機時の消費電力が小さいロー・スタンバイ・パワーCMOSのトランジスタ駆動能力をいかに向上するか」が課題となっています。以前、私たちはゲート絶縁膜を薄くすることでトランジスタ駆動能力の向上を目指していました。しかし、従来ゲート絶縁膜として使用されてきたシリコン酸窒化膜(SiON)ではゲートリーク電流が増大し、薄膜化の限界に達していました。そこで2000年ごろから、ゲートリーク電流の低減のために高誘電率(High-k)によるゲート絶縁膜の開発をはじめました。High-kはゲートリーク電流を低減し、電気的ゲート絶縁膜を薄膜化することでオン電流を向上するという特性を持っていたのです。
High-kゲート絶縁膜の新材料としてハフニウム(Hf)に注目しました。High-k材料は、さまざまあり、電子の移動度劣化が課題でした。ハフニウムを使用すると電子の移動度劣化が改善し、その結果、トランジスタ性能が向上するのです。そこでシリコン酸化膜上にハフニウムシリケート膜を形成するHigh-kゲート絶縁膜の開発に取り組みました。薄いシリケート膜成膜は制御が難しく、当初は順調にいきませんでした。何度も材料検証を続けた結果、シリコンとの境界安定性の良いハフニウムシリケート(HfSiOx)膜を開発することに成功しました(図1)。
これはほかのゲート絶縁膜と比較しても移動度に劣化が少なく、また信頼性も良かったので、製品化への期待が大きく膨らみました。早速、本格的な試作装置を導入しシステムLSIの開発を進めたのですが、製品特性としてNMOSの性能はすばらしく良かったものの、PMOSは製品化を満たすまでいきませんでした。いくつかのパターンで試作を行いましたが、残念ながら満足する特性を得ることができませんでした。
暗中模索の状況の中、ある学会でフェルミ・レベル・ピンニングという現象が発表されました。これは窒化ハフニウムシリケート(HfSiOx)膜の要素となるハフニウム(Hf)とシリコン(Si)と酸素(O)が組み合わさるとしきい値電圧が大幅に上昇してしまう現象です(図2)。つまり、トランジスタ駆動性能が低下することを意味しています。これまで、私たちはゲートリーク電流の低減のためにハフニウム量を多くして誘電率を高くすることに努めていましたが、製品化へのネックがフェルミ・レベル・ピンニング効果にあるということが見えてきました。
そこで、しきい値電圧に目を向けると新しい発想が浮かんできました。しきい値電圧の上昇を抑えるためにハフニウムの量を少なくする方法です。さらに、微量のハフニウムでも移動度が向上するというフェルミ・レベル・ピンニング現象を逆手に取って、しきい値電流を制御しようと考えました。従来、しきい値電流の制御はチャネル不純物濃度で行っていたのですが、私たちはチャネル不純物濃度だけでなくハフニウムも併用することでしきい値電流をコントロールしようとしたのです。この新手法により、移動度の向上、接合リーク電流の低減、狭チャネル効果の抑制が得られる研究結果が出ました。そして、ロー・パワーデバイスに適したトランジスタの駆動能力を向上する技術として、ちょこっとだけハフニウムを使用する「ちょこっとHigh-k」コンセプトが誕生したのです(図3)。その後、研究所、プロセス技術部の協力で実現の目処が立ち、この技術を用いた55nmプロセス技術の開発がスタートすることになりました。
プロセス開発にあたって、どのくらいのハフニウム量であれば、適正なしきい値電圧が得られるのか。NMOSとPMOSをバランスよく性能向上するためには、ちょこっとのハフニウムをいかに制御性よく形成できるか。何度もハフニウム酸化シリケート膜を試作、実験を繰り返すことになりました。ちょこっとHigh-kコンセプトは良かったのですが、開発が軌道にのるまでさらに苦労の日々が続きました。
試行錯誤の結果、ハフニウム量を従来の1/10程度に微量化したハフニウム・シリケート膜を用いることで、しきい値の上昇を0.2V~0.25V程度にすることができました。この微量ハフニウム酸化シリケートによる仕事関数制御とチャネル不純物濃度を併用する新手法で、0.3Vから0.5Vまでのしきい値電圧の設定が可能になりました。
「ちょこっとHigh-k」の実用化の過程で、さまざまなメリットを発見しました。まず、コストが大幅に低減します。ハイエンドプロセスで使用されているeSiGeの1/10程度のコストしかかかりません。またトランジスタ性能において、20%以上のオン電流性能の向上(図4)、またSRAMやDRAM混載の場合での歩留まりの向上など、次世代のプロセス技術としてふさわしい成果を上げることができました。
これらの技術は55nmプロセスのセルベースICに用いられ、携帯機器の長時間駆動を可能にする低消費電力化を実現するだけでなく、高集積化によりコスト低減にも貢献します。NECエレクトロニクスは、今後も携帯機器の多様化、高機能化を通じて携帯機器の高画質な動画処理を実現する技術および製品を開発していきます。