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「危ない!ぶつかる」と感じてブレーキをかける。幸いにも事故にならなくて「ホッ」とした経験があるドライバも多いことでしょう。時速40kmで走行時、急ブレーキの際の停止距離は22m、時速60kmの場合は44mといわれています。つまり、どんなにブレーキ性能が高まっても、事故を起こさないためにはドライバよりも先に危険を察知することが重要です。
そこで、最近話題なのがプリクラッシュセーフティ機能です。これは、クルマに搭載されたカメラやミリ波レーダからの情報を基に、歩行者を含む立体物の位置とクルマからの距離を検出することで、衝突の可能性が高いと判断した場合には運転者に警報を発し、あるいは制御システムが稼動してブレーキをかけることで事故を未然に防止するものです。
歩行者を含む立体物を認識するためには、カメラから取り込んだ画像をリアルタイムに処理することができる高性能な画像認識LSIが不可欠となります。これからクルマ周辺のさまざまな対象物を認識することが広がっていきます。そこでNECエレクトロニクスは、車載用の画像処理に最適な画像認識用並列プロセッサ「IMAPCAR®」を開発しました(図1、写真)。
IMAPCAR®の性能は、100GOPSという単位で表されます。これは1秒間に1000億回の処理を実行するというものです。IMAPCAR®開発にかかわる肥田野氏によれば、「実現するアプリケーションにもよりますが、たとえば白線認識や前方走行車認識などであれば、通常のビデオ入力画像(30フレーム/秒)の全フレームに対して余裕で認識処理ができる性能です」とのこと。この能力を具体的に示すと(図2)、時速60kmで走行している場合、(1秒間に走行する距離は約17m、1秒に30画面の処理可能ということから)IMAPCAR®はクルマから見える風景の動画像認識を約0.5mごとに実行していることになります。
しかし、100GOPSという高性能もたやすく実現できたわけではありません。1990年にメモリ集積型プロセッサアレイ(Integrated Memory Array Processor)による並列処理アーキテクチャが考案された当時、それは車載用としてではなく、純粋に「画像認識技術」として研究開発が行われていました(図3)。1995年には、評価ボードで256並列、20GOPSの処理能力を持つIMAP-VISIONを開発。これにより着々と画像認識の技術基盤が蓄積されていきました。
そして肥田野氏が「クルマとの運命的な出会い」と語る1996年にはNEC全社をあげて取り組んでいるITSプロジェクトが発足、本研究に拍車がかかったことと平行して、白線認識、先行車認識、悪天候時の認識など自動車分野への適用研究も進められました。「当初はクルマ用にどう対応させるか、が課題でした。研究開発では256並列はあったものの、1チップ化に向けて、チップサイズや消費電力、生産技術や品質を考慮しなければなりませんでした。」
2003年米国で開かれた「ISSCC」で発表されたIMAP-CEは、128並列の演算ユニットが同一命令に従うSIMD方式や1サイクルで4命令の同時実行が可能なVLIW方式を採用し、実行性能を向上するための演算ユニットごとに独立した2KバイトのSRAMを内蔵しました。これにより当時業界最高レベルの51.2GOPSを実現し、1チップのプロトタイプになりました。それでも実際に製品として採用されるには、100GOPSという倍の性能が求められたのです。
IMAP-CEにて確立したアーキテクチャを継承しつつ、その要求性能実現のために難易度の高いIMAPのコアとなる演算処理ロジックに手を入れるなど、工夫を重ねました。中でも8ビット演算を一部16ビット演算に拡張することで性能を確保したことは特筆すべきものです。このようにさまざまな施策を実行することで100GOPSという高性能を実現したのです(図4)。
安全が求められるクルマには、安全を確保するための厳しい動作条件がデバイスに求められます。消費電力もそのひとつです。2W以上の消費電力だと放熱対策が必要となり、価格や設置場所に影響を与えます。それは車載システムの設計変更などの要因となり、クルマメーカへの負担を強いることになるのです。IMAPCAR®は130nmプロセス技術を採用したこと、また高速処理能力を並列処理により100MHzの低い動作周波数で実現することで、実質1.7Wの低消費電力を実現しました。またクルマの温度環境は、家電等に比べるとはるかに厳しく、電子デバイスにも-40℃~+85℃(エンジン周りなどは+125℃)の動作温度範囲が求められます。先程の低消費電力化や高性能パッケージ採用による放熱性能の向上により動作温度範囲の拡大を図りました。
これら高性能、低消費電力、動作周囲温度とデバイス性能をクリアした上に、量産工程において不良検出率100%を目指すテストカバレッジの作り込み、および量産段階における品質の確保という課題が待っていました。自動車の「安全」にかかわる製品という責任の重さから市場不良率ゼロ(Zero Defect)を目指し、開発、生産現場一体となり、可能なかぎりの不良低減施策を行いました。
こうしてクルマ用のIMAPCAR®が誕生しました。しかしながら、IMAPCAR®のすごさは、組込み用プロセッサとしての業界最高の演算性能だけではありません。画像認識機能のすべてを並列処理に最適なデータ型、演算子、構文を追加した拡張C言語ソフトウエアで処理しているので、システムの量産直前まで評価が可能であり、変更やバージョンアップなどを容易に行うことができます。また開発環境として、GUIを備えたソースレベルシンボリックデバッガやビデオ入力制御からフィルタ・幾何変換まで開発期間の短縮が可能な関数群を整備したソフトウエアライブラリ、映像入出力ポートを備えることで早期のシステム開発環境立ち上げを実現する評価ボードなどを提供しています。これら開発環境により、IMAPCAR®の性能を最大限に発揮させ、開発効率の向上に貢献します。
最後に肥田野氏は次のように語ってくれました。「画像認識用半導体の開発では、画像認識のアルゴリズムや並列処理の技術、さらにはソフトウエア開発や評価も重要なのです。それに見合った一貫したサポート体制を持つことで、さらに高度な画像認識技術が実用化されていくでしょう。」
安全性を高めることに限りはありません。NECエレクトロニクスは、画像認識用並列プロセッサ「IMAPCAR®」のさらなる高性能化を目指し、ぶつからないクルマの実現、安全なクルマ社会の実現に貢献していきます。
・IMAPCARはNECエレクトロニクス株式会社の日本における登録商標です。