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<第一部>
カーオーディオ用マイコンをご紹介するうえで、オーディオのチューナとして現在ではごく当たり前になっているDTS(Digital Tuning System:選局をデジタルで行うシステム)を抜きにしては語ることができません。NECエレクトロニクス(当時NEC)は、このDTS専用マイコンを世界で最初に開発しました。今から約30年前、1970年代半ばのことです。まずは当時の状況を、開発に携わった河田和秀氏に聞きました。
■デジタルチューニングシステムが開発された経緯についてお聞かせ下さい。
いまから30年ほどまえ、カーオーディオといえばカーラジオのみでした。当時カーラジオのチューナはラジオ局の受信周波数ごとに同調回路を設けて、その回路を機械的にスイッチで切り換えるしくみでした。ラジオ局ごとのボタンを「ガシャッ」と押して選ぶものですが、ボタン1つにラジオ局1つの割り当てになりますから、選べるラジオ局の数はどうしても少なくなります。また、ラジオ局ごとに同調回路がありますから、カーラジオのシステムがどうしても大きくなってしまいました。
そこでNECエレクトロニクスは当時、航空用無線機等で採用されていたPLL周波数シンセサイザを1チップにしたLSIを開発しました。これがDTSです。機械的システムのようにラジオ局ごとの同調回路が必要なく、PLL制御により安定した受信ができる事はもちろん、今では当たり前の受信周波数が直読できるメリットがあります。このLSIが、4ビットマイコン「μPD1700シリーズ」です。
■最初はなかなかお客様に受け入れてもらえなかったようですね。
1970年代末から量産を始めましたが、当初「μPD1700シリーズ」はカーラジオ市場でなかなか受け入れてもらえませんでした。機械的なシステムより5倍のコストがかかったからです。また、当時マイコンはノイズの塊という認識があり、「ラジオに入れるなんてとんでもない」と考えられていました。マイコンから出るデジタルノイズが、ラジオの受信回路に影響を及ぼしますから当然のことです。当社はノイズをなくすためにさまざまなノウハウを導入しました。世界各地域の放送局のある周波数帯にマイコンの高調波ノイズが載らないような発振周波数を設定したり、内蔵されているPLLがマイコン部からのノイズの影響を受けないような設計上の工夫もしました。また車の中にあるカーラジオは外来ノイズを多く受けるため、このノイズ対策も必要でした。そのため外来ノイズによるマイコンの暴走を防ぐため、暴走を吸収できる様ソフトウエアにも工夫しました。
■「μPD1700シリーズ」が一気に広まるきっかけがあったそうですね。
そうした時、意外なところからアプローチがありました。家庭用オーディオ製品です。「μPD1700シリーズ」の安定した受信性能が注目されたのです。すると最初は懐疑的だった車載メーカからも改めて声がかかるようになりました。当社はマイコンのソフトウエアを開発してほしいというお客様の要望に応えるだけのソフトウエア技術力があったこと、さらにそれをベースにしてカーラジオ全体のソフトウエアを開発するトータルソリューションを提供できたことが、カーラジオ向けでの採用に大きく貢献したと思います。こうして、発売から5~6年、1980年代前半には「μPD1700シリーズ」の出荷は月産100万個を越えるようになりました。
■これ以降も次々と新製品を開発し、カーラジオを牽引されていますね。
次に「μPD1700シリーズ」にFM帯(100MHz) プリスケーラ(周波数を分割する部品)をチップ内に取り込んだ「μPD1708」を開発しました。「μPD1708」はコストパフォーマンスに優れた製品で、これが牽引となり発売から約1年後にシリーズ全体で月産200万個レベル、次の1年後には月産300万個レベルと飛躍的に増えました。これは、もちろん「μPD1700シリーズ」の性能がお客様から高く評価されたためで、高級車だけでなく大衆車での採用も増えるようになりました。
その後ラジオだけでなく、カセットデッキやCDの再生などのカーオーディオとしての機能に合わせて「μPD1700シリーズ」の利点を継承した「17Kシリーズ」や8ビットマイコンを搭載した「μPD178Kシリーズ」を発表しました。「μPD1700シリーズ」や「17Kシリーズ」では汎用レジスタ方式を採用しました。通常のマイコンのレジスタ(マイコンの記憶領域)はそれまで特定の部分だけが演算部につながる専用レジスタ(アキュムレータ)方式が使われてきました。それを、どの部分も演算部につながる汎用レジスタ方式を採用したのは、低いクロック周波数で多くの処理を実現し、マイコンのノイズを低減するという特徴を出すためでした。このコンセプトは、もちろん最新の32ビットマイコン「V850ES/SG3, SJ3」でも採用されています(図1)。
■お話ありがとうございました。
このようにDTSから始まったNECエレクトロニクスのカーオーディオ用マイコンは、いまではフラッシュを搭載した32ビットマイコンにまで進化しています。続いては、今回開発した新製品の魅力についてご紹介します。