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2004年5月17日。業界初(※)となる2mΩを切るオン抵抗値を実現した自動車用パワーMOSFET「NPシリーズ」のサンプル出荷が始まった。NECエレクトロニクスが2年余りの歳月を費やし、ようやく製品化にたどり着いた画期的な製品である。40V耐圧で1.4mΩ(最大保証値1.8mΩ)を実現し、110Aの大電流容量に対応する「NPシリーズ」の出現は、小型自動車ではすでに普及している電動パワーステアリングの大型車への普及など、自動車の電子化の波に拍車をかけるものとして業界の注目を集めるものとなった。
(※)2004年5月21日現在
一般にはあまり馴染みはないが、パワーMOSFETは、電動システムを駆動させる際に電源のスイッチ機能を果たす電子部品で、パワーステアリングをはじめ、パワーウィンドウ、エアバッグ、ABSなど、あらゆるアクチュエーター(駆動器)の制御に使われるようになってきている(図1)。従来スイッチとして使用されているメカニカルリレーのように接触による劣化がなく、応答速度もきわめて速いといったメリットがある。さらに、エンジンのパワーを利用した各種制御を行う油圧式装置と比較し、パワーMOSFETを使用した電動式装置は、装置の簡素化・軽量化を可能にし、燃費の向上や環境への負荷の低減をより高いレベルで実現することができる。
唯一の問題はオン抵抗だった。オン抵抗とは、電流が流れた時(オン状態)に発生する抵抗のことであり、この抵抗値が高いとパワーMOSFETが大きな電圧降下を生じて発熱が増えてしまうのだ。特に電動システムに大きなパワーを必要とする大型車では、パワーMOSFETにも大容量の電流が流せて、しかも高い耐電圧特性を持つことが要求される。そこには2mΩというオン抵抗値が、ひとつの大きな壁としてあった。しかし、ひと言で2mΩを切ったというものの、コンマ数mΩの値をめぐって、この2年余りの間さまざまなドラマが繰り広げられてきたのだった。
今から遡ること2年半前の2002年2月。他社メーカーは新しいパワーMOSFETの売り込みを開始していた。それは当時業界トップレベルのオン抵抗値、2.3mΩを実現した製品だった。一方、NECエレクトロニクスのパワーMOSFETは、当時オン抵抗値4.3mΩと、その差は歴然だった。しかも、その時開発中だった次期製品の目標値でさえ2.4mΩと及ばなかった。
NECエレクトロニクス(当時NEC)では、自動車向けパワーMOSFETにおいて8世代の製品にわたり20年以上の実績があり、自社の製品ロードマップに沿って新製品を開発していけさえすれば必ず売れるといった状況がそれまで続いていた。また、常に業界トップレベルの製品を送りだしてきたという自負もあった。しかし、今度ばかりはそうはいかない。パワーMOSFETの開発チームに襲ってきた突然の危機感にスタッフの全員が動揺を隠せなかった。
商品企画の山田慎吾は当時を振り返り、「はたして今後この分野で戦っていけるのだろうか」と不安でいっぱいだったと語る。今まではコツコツと技術を積み重ねていけば良いという、ある意味、技術者にとって理想的な環境にあった。しかし、状況は一瞬にして変わった。まさに晴天の霹靂だった。ロードマップの見直しをせざるを得ない。初めて経験する焦燥感を抱えながら、悶々とした日々が続いた。